ホジャ・ナスレッディン

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第4話 アダナでトルコに触れる

9月19日(土)
 今日は移動。イスタンブールを駆け抜けて、さっさと飛行機でトルコ南部のアダナという街に向かいます。ここはアリさんの故郷なのです。今回の旅の目的は実は、アリさんのご家族を訪ねるのがメインで、ラマダン明けのバイラム祭を久々に実家で過ごそうというアリさんに便乗したのです。

イスタンブール空港も国内線はコンパクト、飛行機まで歩いて行ってタラップを登るのが楽しい。
 アダナに12:30着。飛行機を降りると空気がなんとなくあたたかくて、九州にでも降り立ったような気分。アリさんのお兄さんが車で出迎えてくれていて、お兄さんの家へ向かう。車の中から、アダナの街を見物。古い古い建物がそのまま使われていて、くすんだ、でも活気あふれる下町の風情。商店街は人でごったがえしている。今夜でラマダンが明けるので、みんな買い物に来ているんだそう。さまざまな物を売る喧騒の街を抜けると今度は新しい感じの広い道路にでて、少し行くと高層ビルとめちゃくちゃ大きなモスクが。中東一という大きなモスクなんだそうな。お兄さんの家のあるあたりは、同じような形の家がひしめく、ちょっと古い住宅街といったあたり。こじんまりとして清潔なかわいいおうち。とりあえずリビングルームに通される。ルキエとベイザーという20歳前くらいの年頃の娘二人がいて、こまごまと世話をやいてくれる。もう一人10歳くらいのスレイマンくんという弟もいて、親しげに藍子を見ている。ほかに従姉妹とかも現れては消えたりするので、家族構成がなかなかつかめない。(あとで、イトコはすぐ向いに住んでいるのだと判明)なんとなく挨拶をかわすと(やっぱり英語は通じない)わたしと藍子だけ昼食をいただくためにキッチンに通された。これまたかわいいキッチンなのだ。

レンズ豆のスープはトルコ版味噌汁みたいなものか。よく出てくるが、今日のはちょっとチリがきいていておいしい。ほうれん草のソテーにはヨーグルトと赤いオイルソース、キョフテ(挽肉の団子)は小麦粉の皮でつつんだもの。サラダ、エキメキ、ももジュース、食後にフルーツ!黄桃、洋梨、プラム、いちじく、ものすごく美味しい!! 食事の後アダナ見学に、ということだったがあんまり疲れていたので石川君だけ送り出して、わたしと藍子は休ませてもらう。ルキエとベイザー姉妹の部屋でベッドを用意してもらい、うたたね。外は雨が降ってきて、雷もなりだした。隣の家であわてて窓を閉める音、雨の音、外の湿った空気、藍子が眠れず小声で歌っている声・・・をぼんやり感じながらまどろむ最高のひととき。そのうち姉妹がシャワーをすすめてくれ、広いタイル張りの清潔なシャワールーム(湯船はない)が気持ちよくてつい長湯(?)。シャンプーすると、姉妹が藍子の髪をかわかして編んでくれる。そのうちお母さんが料理をするところを見る?とキッチンに誘ってくれる。小麦の生地を薄く丸くのばしてほうれん草のソテーを上半分に薄くのばしてのせ、生地を半分に折る。端をパイカッターで切り落としてフライパンで焼く。もう一種類、チーズをはさんだものも。





焼けたものをくるっとまいて食べる。


キッチンでは娘たちがてきぱきとよく働いている。藍子もお姉さんに教えてもらってお手伝い。


大きなパンを切り分けていただく。


キッチンのちいさな扉(勝手口?)からふと外をみると、いつの間にか雨はやんでいて、そろそろ日も傾いてきた。トルコの家は外壁がかわいいパステルカラーにペイントされている家が多い。ピンクやグリーン、クリーム色などが濃淡で塗り分けられていて、なんともかわいいのだ。この家はあちこちが大きな白いタイル貼りになっていて、ところどころに模様も入っていて上品で清潔感のあふれた家だった。
 いつのまにか石川君たちも帰ってきていた。さっき車の中からみたあの巨大モスクに行ってきたらしい。




さて今日でいよいよラマダンが終わる。さっきから断食明けの楽しい夕食を用意しているのだが、料理はお母さんをメインに、娘2人が本当にてきぱきとよく動いて3人でどんどん仕上げていく。お母さんはどーんとした感じの人で、娘2人は賢そうできれいできちんとしていて気が利いてよく働く。見ていてほれぼれする位。いよいよ日も落ちてきて準備は整った。「どうぞ上へ」と言われて階段を上ると2階ではなく屋上だった!屋上にぶどうの木がからまる屋根つきのちょっとしたスペースがあり、色とりどりのラグが敷いてあるその楽しい場所での食事なのだった。

靴をぬいでちょっと上がるこの感じがたまらない。


どの家にも必ずといっていいほどぶどうの木がある。ちょうど食べごろの季節。


雨上がりの澄んだ空気と夕空が、楽しい食事の気分をさらに盛り上げてくれる。


夕食は大きな布が広げられてそこにどんどん運ばれてきて、みんなでまわりをぐるっととりかこんで座っていただく。レンズ豆のスープ、さっき一緒に作っていたほうれん草とチーズのはさみ焼き(?)、なすとピーマンのソテー、グリンピースと人参入りのごはん、キョフテ、赤キャベツのヨーグルトサラダ、大きなエキメキと、薄い皮のようなエキメキ。飲み物はアダナ名物のシャルガムというのをいただく。濃い紫色で、ピクルスみたいな味。すごく刺激的なのに飲むとさっぱりしていて食欲のわく飲み物だった。あと、ちょっと買ってきたんだといってまわってきたお菓子が、ごまと砂糖とピスタチオでできていてホロッとくずれて香ばしい香りがわっと広がってやたらおいしい。食後はチャイとバクラヴァ、フルーツ盛り合わせは甘いぶどうともも、梨、プラム、ざくろ。おしゃべりのあとなぜかけん玉大会で盛り上がる。

 食事の片付けも終わり、そろそろ眠たくなってきて、どの部屋で休ませてもらうんだろうかと考えていると、なぜか家族全員が出かける支度をはじめている。ルキエとベイザーもこの服がいいかなあとか話しながら大きなかばんに詰めている。旅行の準備?なにしろ予定はなにも聞かされていないのだ。そうこうするうちみんなで車に乗り込んで夜の道を走りだす。1時間以上も走っただろうか、とにかくほとんど眠っていたのでわからない。やっととまって真っ暗闇で車をおりると満天の星空・・・!かなりの山奥に連れてこられたのか空気の感じが違う。家の中に案内されると、さらに田舎のシンプルな建物で壁紙もないむき出しのコンクリートの壁、絨毯やラグを敷き詰めた床、ソファーとクッションしか置いてない広い部屋。ここはアリさんのお姉さんの家だという。石川君はインドのカシミールでお世話になった家と似ていると言っている。簡単に挨拶をしている間にルキエとベイザーは慣れた様子で私たちのベッドを整えてくれる。まったく様子がわからないまま倒れこむように眠る。