ホジャ・ナスレッディン

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第12話 チャイはチャイでも味は番茶になりました。

9月27日(日)
 朝はゆっくり8時半まで眠る。いい天気。このアパートの部屋には、小さいけれどキッチンがあり、冷蔵庫があり、テレビもあり、久しぶりに自炊ができて家族3人だけでゆっくり過ごすことができる。昨日のスーパーで買った米と、持ってきたお味噌を使って、石川君がご飯とみそ汁の朝ごはんを作ってくれた。

長旅用にと持ってきた食材は、味噌、醤油、切干大根、干ししいたけ、梅干、梅醤(練り梅に醤油をまぜたもの)、おせんべ(ぱりんこ)、あとフリーズドライ味噌汁。切干大根と干ししいたけ、というのは旅慣れた友人から教えてもらったのだが、彼女が言うには「切干大根と味噌さえあれば、あとお湯をもらうだけでとにかく味噌汁が飲める」というのだ。なるほどこれは重宝した。日本食が恋しくて、というより、疲労しきった胃にはこういうメニューがありがたいのだ。

 食べているうちにアリシェルさんとアクバルさんがやってくる。アクバルさんはなんとでかいケーキを買ってきてくれた。

箱が段ボール、というのがすごい。しかしでかい。みんなでケーキを食べておしゃべりして、テレビを見たり、せんたくものがたまってしまったのでとにかく洗って干して、荷物を整理して、とかやってたらお昼になってしまった。

 アパートを出て地下鉄でバザールまで出かける。

近くの公園にパンダがいた。


なんとなくロシアを連想するでかい建物がたくさん建っている。

 地下鉄で、タシケントでおそらく一番大きいチャルスバザールという所へ行く。駅を降りるともう目の前で、日曜ということもあってか、すごくにぎわっている。

看板やテントもロシア文字が多い。

まずは雑貨のエリアをのぞく。

生活雑貨の店はほとんどがメイドインチャイナな感じ、プラスチック製品がほとんどで、良質な感じのするものはまったく見当たらなかった。


こちらはカゴ屋さん。




きれいな模様の陶器はここらあたりの工芸品だ。針の先で細ーい線を描いた細かい模様のお皿もある。滞在中に少し買って帰りたいなーと思いつつ物色。湯のみのディスプレイがすごい。

雑貨はあまり買いたいものもなかったのでなんとなく足はフードエリアへ。それにしても広い!野菜にフルーツ、ハーブばかりを売っている店もあるし(ハーブの種類はフェンネルやコリアンダーが多かった。なんとなくアジア寄りな感じ)、スパイス、チーズ、ソーセージ、お菓子やお惣菜などなど・・・

りんごと梨。こちらでも梨といえば洋梨だ。なぜか金歯の人をよく見かけた。


これは多分りんご。ウズベキスタンは本当に色んな顔の人がいる。ウズベキ人はトルコ系と言われるが、トルコ人ともまた違うし、アジア的といっても中国や日本に比べるとまた独特の何かがある。野性的というか険しい感じもある。かと思うと金髪碧眼のロシア人もいる。


レモン。これもディスプレイがすごい。バザールはどこへいってもディスプレイが凝っていた。パッと見たとこ山積みのじゃがいもなんだが、よく見ると1個ずつきれいに重ねたらしく整列していたり。写真に撮れなかったが、真ん丸のきれいなチーズをよく見かけたのだが、まるでお月見団子のようにピラミッド型に積み重ねてあってかわいかった。


この手のジュースがいっぱいあった。滞在中、コーラとファンタオレンジをよく飲んだ。


お菓子。昨日のスーパーでもこうやって売られていた。どういう単位で買うのかわからず、なんとなく買いそびれた。


スパイスの山!ほかにナッツ類も豊富だった。


さらにお惣菜エリア。このコーナーでは後ろにテーブルがあって食べることができる。




この2枚はキムチ屋さん。昨日の屋台でも見かけて不思議に思ったのだったが、ウズベキスタンには朝鮮系の人々もたくさん住んでいて、キムチやナムルなど朝鮮の料理もかなり普通に食べられているそうだ。このあと訪問したご家庭でも、春雨のサラダのようなものはよくいただいた。ただ、キムチは朝鮮人しか作れないらしい。秘伝の味を守っているのだそうだ。なのでやはりキムチ屋さんは朝鮮人だなあと思わせる顔立ちのおばちゃんがやっているところが多かった。

さて、私たちも何か食べましょう、ということになる。やっぱりシャシリク(焼き肉)かな。

このおじさん、顔もいいし服もいい。お肉も美味しそうだ!こちらでいただくことに。

串にさした肉を炭火で焼いてくれる。


シャシリクとナン、サラダ、チャイをオーダーしてテーブルに着く。チャイは陶器のポット(土瓶?)で出てきて、湯のみで飲む。味は薄い番茶のような味。ナンは大きな丸い平たいパン。アリシェルさんがちぎってみんなに配ってくれる。ナンでお肉と玉ねぎをはさんで食べる。トルコのケバブがシャシリクになり、エキメキがナンになり、チャイはチャイでも味も食器もアジアになった。トルコのアダナケバブ屋さんで食べたものと似たようなもののはずなんだけど、ディティールが違うと全体が違って感じられるところがなんとも面白い。

ビニールの安っぽいクロスのかかったテーブルに座り、炭火の煙で曇った中でがっつりと肉を食べながら、すっかり文化圏の変わったことを実感。トルコを見てきたあとだからこそ感じられる、この大きなつながりと微妙な違い。中央アジアという文化に、ちょっとずつ馴染んできました。

さて食べ終えると、3時からのサーカスに間に合うようにと移動。チョルスバザールから歩いてすぐのところにサーカスがあるという。歩いていくと、大きな公園のような中に大きな体育館のような建物が見えてきた。移動式ではなく、サーカス劇場とでもいうのだろうか。まずは窓口で切符を購入。

建物が面白くてきょろきょろする。

大きくて重厚な建物。古びてはいるがぜいたくだ。

サーカスの壁画。

こちらはポスター。


ロビーには空気のはいったふわふわの遊具が置いてあり、遊ぶ藍子。写真後ろの方の頭から何かつきでたキャラクターが気になる。

ちょっとくたびれたかんじがかわいい。

時間になり、会場の中に入る。中は親子連れでとてもにぎわっている。

客席にぐるりととりまかれたステージで、2階あたりの一角には生バンドがリハーサルをしている。お客がどんどん入ってくるとステージでは、空中ブランコや仔馬に子供を乗せてくれるサービスが始まった。みんな順番待ちをして、つぎつぎに乗せてもらっている。

いよいよサーカスが始まった。美女がフラフープをぐるぐるまわしだす。フラフープはどんどん増えていき、ついには30個くらいをいっぺんに全身でまわしまくる・・・それから体のやわらかい少女がでてきたり、かわいい犬の芸があったり、天井からつりさげられた1本のロープをどんどん登っていってポーズをとる美女、筋肉隆々の男たちによる大縄跳びってのもあった。すごい複雑な飛び方をしていた。合間にいちいちピエロのコントが入るとこも和める。出し物はだいたい録音された音楽がかかり、これがまた古めかしいテクノっぽいのがあったりしてかなり私好みだった。ピエロのときは2階のバンドの生演奏が多く、ホーンが多くてこれまた私好み。それからウズベキの伝統的な踊りというのもあり、これがすごく不思議な振付の面白い踊りだった。踊りながら時折「キャッ」て感じの高い声をだすのだが、それがまたなんともあとを引く不思議な感じ。あとは火吹き男もでてきた。すごいメタル風の衣装、音楽ももちろんメタル調。たいまつを持って現れて、口から火を吹いたり、たいまつを口の中に入れたり、すごい芸だったが音楽もすごくて盛り上がった。

これがウズベキの伝統的な踊り。

そしていよいよクライマックスは馬!曲芸乗りというのか、かなりスピードをだして馬を走らせながら色んなポーズをとる。馬を走らせるにしては随分狭いステージだと思うのだが、すごいスピードでぐるぐるぐるぐるまわりながら馬から落ちそうなくらい身をのりだしたり、前の人が落としたハンカチを次の人が拾ったりとかしていた。馬に乗っている人は女性もいた。とにかく人と馬の一体感が素晴らしく、やはり馬との歴史が長い中央アジアだからこそのこの一体感なんだろうかと感動してしまった。

 サーカスが終わり外にでると、フーセン売りがいたり、ロビーにもあった空気入りのふわふわ遊具が何種類もあったり、ディズニー風の着ぐるみがうろうろしていたり、ちょっとした遊園地状態。私としては座ってお茶でも飲みたい気分だったんだけど、そういう場所はない。広場の真ん中に馬を連れた人が何人もいて、見ていると馬に乗せてくれるという。動物好きの石川君と藍子がさっそく乗りたい!といって乗せてもらう。アリシェルさんも僕も!と乗せてもらう。公園を綱を引いてもらって一周してくる。

後ろに見える建物がサーカス劇場。

ところが!帰ってきて馬から降りると、値段を決めておかなかったせいでえらくふっかけられてしまった。こちらはとにかくアリシェルさんだのみなんだが、向こうは人数も多くなんとなくコワモテの人もいて、うまく交渉できない。結局多少折り合いをつけてもらったものの倍以上払わされて、アリシェルさんはかなり怒っていた。アリシェルさんとしては大好きな日本人にそんなことをしてほしくないといって怒っていたのだが、日本人なんだからしょうがないなとも思う。だって値切るのも申し訳ないような金額なのだから。(アリシェルさんは相場で3000スム、石川君と藍子は2人で10000スム払わされた。と、いっても620円なのだ。)
 しかしこの件で、値段のついていない買い物がこわくなってしまった。むこうの人からみたら、とんでもなく金を持っている人たちと思われてもしかたないのだ。

気を取り直してふわふわ遊具で遊ぶ。こんな絵が。

反対側には「顔がしずかちゃんで体がドラえもん」という絵もあったのだが、撮影に失敗していて残念。
 サーカスから出てきたときにわたしが「お茶でも飲みたいな」といったせいで、アクバルさんが冷たい水を買ってきてくれた。「のどが渇いた」と「お茶が飲みたい」の間にはニュアンス的に深い溝があるのだが、ここでは伝わらなかったようだ。彼らが若いということもあるのかな。トルコではしょっちゅうお茶を飲んでいたので、ちょっとトルコが懐かしくなった。

そのあと、16世紀のものという古くて大きなモスクに行く。石川くんとアリシェルさんが中に入り、藍子とわたしとアクバルさんとで待つことに。モスクのすぐ横がちょっとしたバザールだというので3人でぶらりとする。

真ん中の広い所でナンを売っている。これがウズベキスタンの大きな丸いナンだ。あらためて写真をよく見てみると乳母車を改造したみたいな車にのせている。もう夕方なのでバザールも終わりに近い。最初の日に食べたナッツを飴で固めたお菓子を売っていたのでまた買って3人で食べる。中国製っぽいアクセサリーのお店があり、そこで藍子はアクバルさんにネックレスを買ってもらった。


バザールもどんどん閉まっていくのでモスクに戻り、建物の前の広い所で藍子はアクバルさんに風船でボール遊びをしてもらう。アクバルさんて本当に子供の相手が上手だ。

そろそろ日が沈んできた。偶然なんだと思うけど、すごい色の写真がとれた。空気がきれいだからなのかな。

 暗くなってからやっと石川君とアリシェルさんが戻ってきた。かなり面白かったらしく、興奮気味の石川君、もうすこし中を見せてくれるそうなのでみんなで中に入ろう、ということになる。ここは単なるモスクではなく、学校になっていて、しかも寮になっているんだそうな。中にはいると回廊のようなところの中庭の一隅で食事をしている人たちがいる。寮の人たちなんだろうか、不思議な光景だった。案内役の人が、建物の古いところをまわって見せてくれた。

 モスクを出るとすっかり日が落ちていた。夕食はどうしようか。きのうのハンバーガー屋のことを思い出すと、外食がこわい。モスクに来る前に、すぐ目の前にショッピングセンター風の建物があり、アリシェルさんがタシケントで一番大きいスーパーです、と言っていたのを思い出し、そこで買い物してアパートで何か作ろうよ、ということにする。スーパーに入ると、結構高級スーパーらしく日本でもちょっとこぎれいなスーパーの風情、ヨーロッパっぽいなと思ったら、トルコの会社がやっているのだそうだ。金銭感覚はマヒしているので、なんでも必要なものをカゴに入れていると、値段をみてアリシェルさんが首をひねっている。石川君がカレーを作るというので、チキン、スパイス、野菜などを買う。奥の方にガラスケースにならんだケーキを売っているコーナーがあり、いいにおいがしているのでのぞいたら、トルコのバクラヴァがあった。思わず買いそうになったがやめといた。(ウズベキに来たらウズベキのものを食べようと思ったので。そしてアパートの冷蔵庫にまだあのでかいケーキがあることも思い出したので)楽しくお買いものしてタクシーで帰る。そしてみんなでカレー作り!

調理スペースがほとんどないので、床で野菜を切るアリシェルさんと藍子。

足りない設備で作るのもまた楽し。

できあがったのが、チキンカレー、トマトと赤玉ねぎとコリアンダーのサラダ、ゆでたまご、パン。すいません、写真ありませんでした。石川君、藍子、わたし、アリシェルさん、アクバル、そしてアクバルがイスロムさんの娘のランノちゃん(6歳)を連れて来てくれたので、みんなで食べる。トルコではずーっとおよばればっかりだったので、ひさしぶりにおもてなしがわにまわった気がする。こっちのほうが気が楽だ。食後に例のチョコケーキ、メロンにぶどう。テレビを見ながらのんびりだらだらする。ウズベキスタンではこのあと田舎をぐるっとまわることになるのだが、例の警察の書類を取りにいかなくてはいけない用事ができてしまったので、本当は明日出発したかったのだが一日のびて明後日の午後しか出発できなくなったので、明日もう一日のんびりすることになったのだ。疲れもとりたいし。そんなふうでこの日の夜は遅くまでお茶を飲みながらおしゃべりしたり日記を書いたりテレビを見たりして過ごした。