ホジャ・ナスレッディン

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第8話 料理上手なアンネを訪ねる

9月23日(水)
 早朝カイセリに着いた。アダナからどんどん北に向かってふたたびイスタンブールに向かうというルートだ。朝のうすい光の中で、バスの添乗員さんがカップ入りのミネラルウォーターを配り、手にレモンの精油をかけて廻ってくれる。さわやかな香りが心地よい。
 カイセリには、これまた名古屋在住のUさんのご実家があり、訪問することになっているのだ。バスターミナルにはUさんのお父さんが迎えに来てくれて、朝の街を車で走る。少し曇り空。このあたりも割と郊外で、街のはずれから高い山がよく見える。少し霧がかかっている。Uさんのお家もやはり高層マンションで、装飾品のたくさん飾られた豪華なお宅だった。用意してくれた部屋にはなんと床にふとんが敷いてあり、まずは倒れこんで気持ちよくぐっすり眠る。

 10時頃起きて、快適なシャワーのあとブランチ。キッチンに通されるとテーブルの上はお皿が並べきれないほどだ。Uさんのお母さん(トルコ語でアンネ)は名前をギュルテンさんといい、とても料理が上手と聞いていたので、期待をこめた訪問だったのだ。さてブランチのテーブルには、エキメキ、カイセリ名物のスパイスが効いた生ハムみたいなもの、これはすごく熟成した肉の味、濃厚だった。チーズがいろいろ。手作りジャムもいろいろ、ローズヒップ、チェリーなど。トマトときゅうりのサラダ、赤ピーマンのとろっとしたグリル、サラミのソテー、フライドポテト(子供用)、ヘーゼルナッツペースト。それからナスのコンポートをいただいた。これはギュルテンさんのオリジナル。ナスをシロップで甘く煮詰めたもの。クローブが効いている。これがマロングラッセみたいに甘いんだけど、濃密なコクのあるなんとも絶妙な食感! これは美味しかった。チャイが進む。カレーの話になり、トルコではあんまりカレーは見かけないし、トルコ人はあんまりカレーは食べないようなのだが、ブレンドスパイスがありますよ、と味見させてくれた。日本のブレンドスパイスといえばいわゆるカレー粉。あれに比べるとまたちょっと違った香り。なんだか野菜に合いそう。石川君は赤ピーマンのグリルにちょっとかけて食べてみている。スパイスはやっぱり食欲を増進させるなあと、胃腸が刺激されたらしい。ギュルテンさんも料理が大好きな方で、もっといろいろお話できたらなあと(トルコ語勉強してこればよかったと)またまた痛感。

 そのうちこれまた名古屋在住の友人Jさんがやってくる。彼はちょうど帰省中で、カイセリ出身なので街を案内してもらうのだ。とりあえずみんなでおやつ。バクラヴァ、チョコソースのかかったシュークリーム、チーズのような味のクッキー、じゃがいものパイ。お腹一杯のはずなのに、ついつい食べてしまう。お菓子の組み合わせが絶妙だったので。そして、みんなで出かける。

 カイセリも結構古い街で、中心に古いモスクがあり、そのまわりに古いアーケード商店街みたいなのが広がっている。



アーケード街の雰囲気は大須っぽい。地下街もあるが、そこはメイドインチャイナ的な商品が多かった。

CD屋さんでいろいろ試聴させてもらいながら、お買いもの。ミュージックテープも結構ならんでいる。

楽器屋さん。ぶらさがっているのはウード。

これは多分チーズ屋さん。チーズ屋さんがあると、真っ先に鼻が気づく。
ムスリム女性が頭にかぶるスカーフがうず高く積まれたスカーフ屋はさすがに多い。1枚4~5リラ。ハンドメイドのものはもう少しする。アリさんとJさんが値交渉をしてくれる。(交渉せずに買うな、としつこく言われる)スカーフ屋、アクセサリー屋、服屋、おもちゃ屋なんかが多い。横道をちらっとのぞくと、細い路地に椅子とテーブルを置いて老人が座っていたりする。そういうのはどこの国でも同じ風景。

ちょっと見にくい写真なんだが、これは、チャイの配達少年。持ち手のついたお盆でチャイを運んでいるのだが、これがびっくりするほど人ごみをすいすいかき分けてこぼさずに運ぶのだ。Jさんも子供のころからそんなバイトをよくしていたらしい。こちらは子供がよく働く。そういう子供は大人になるとすぐになんでもできるのだ。

ソーセージ屋みたいなとこで、アダナで飲んだシャルガムを飲む。なかにピクルスも入っている。藍子がお腹すいたと泣き出したので、Jさんがケバブサンド屋さんに交渉して、特別小さいのを作ってもらってくれた。空はどんより、時々小雨も。お土産をいろいろとチャイのポットとグラスなどの買い物をして帰る。

Jさんの家に寄って奥さんと子供を車にのせてUさんの家に急ぐが、途中すごく渋滞していてちっとも前に進まなくなってしまった。まわりの車はみんなどんどんイライラしてきて無理に前に進もうとして、3車線が5車線みたいになってかえってメチャクチャなことに。クラクションをブーブー鳴らしたり、窓を開けて叫んでる人もいる。ようやく前に動き出してみるとオーバーヒートしてる車もあったりして、交通事情はなかなか厳しい。

ようやくUさんの家に着く。今日も男女別室だった。男たちはダイニングルームへ、女と子供たちはキッチンで。しかしギュルテンさんとUさんのお姉さんは料理の支度で落ち着かず、子供たちは遊び始めるし、で、わたしと片言英語のJさんの奥さんとでいただく。

最初のスープはなんとマントウだった。アダナで教えてもらったあの手のかかるスープだ。しかも小さいマントウが一人分でもいっぱい入っている! もちろんギュルテンさんの手作りだ。これにヨーグルトをかけていただく。酸味がほどよく効いてスープはこくがあってとてもとても美味しい。

サラダはレタス、赤キャベツ、トマト、コーン、にんじん。ドルマというブドウの葉でひき肉を巻いた料理、キョフテは肉、くるみ、たぶんチーズも入っていて小麦の皮でつつんである。なすのペーストにお肉の煮込みがのった料理は、前にもいただいたことがあるが、こちらのはペーストが濃くてねっとりとしていてすごい!!なすは焼きなすにしてから作るので香ばしいかおりがよいし、生クリームとか使っているのかコクがあって濃密なうまさ。あと、にんじんのソテーのようなものにヨーグルトをかけたもの、赤ピーマンのグリル。この赤ピーマンもまたとろっとしてやみつきになるのだ。もちろんごはんとエキメキと一緒にいただく。やっぱりすごい量でとても食べ切れない。トルコ人はこんなに食べるのかとJさんの奥さんに聞いてみると、やっぱり多くて食べきれないわと言っていた。それにしてもこのお料理、作るところが見たかった!

 食後にトルココーヒーを淹れるところを見せてもらう。小鍋も専用のものでないとうまく作れないそう。カップできちんとはかって水を入れ、先に砂糖を煮溶かす。コーヒーを人数分入れてゆっくりあたためて、泡がでてきたら少しずつすくってカップにいれる。それからコーヒーをカップに注いでいく。結構難しそうだ。コーヒーをいただきながら色々なナッツ。アーモンド、ピスタチオ、かぼちゃの種、ひまわりの種、アプリコットの種はアーモンドに似ているが少し小粒で香りが少し違う。あと、バラの香りの不思議なデザート。白くて湯葉みたいなもの。何なのかさっぱりわからなかったが美味でした。そしてチャイ。Uさんの姪っ子、Jさんとこの男の子、赤ちゃん、藍子、4人の子供の相手をしつつ片言の英語でなんとなくおしゃべり。11時すぎくらいにようやく片づけ始め、またまたあの快適なおふとんで休ませていただく。日本に帰ってからUさんに話したところ、ギュルテンさんはUさんに「日本からのお客さんにゆっくり休んでもらうためにはどんな用意をしたらよいか?」と聞いて、床にふとんを敷いておいてくれたのだそうだ。本当にトルコの人はおもてなしがうまい。心配りがすごい。